経済団体新設や電子書籍進出 三木谷浩史さん 摩擦気にせず世界に挑戦
1年前に突如、ミニブログ「ツイッター」でその存在価値に疑問を呈し、経団連を脱会した楽天の三木谷浩史社長(47)。財界活動にピリオドを打ったかと思いきや、6月には新しい経済団体として「新経済連盟(新経連)」(会員838社)を発足させた。
社内では2年の助走期間を経て「完全英語化」を実施、グローバル企業を目指す
社内では2年の助走期間を経て「完全英語化」を実施し、7月から約8000人のグループ従業員は私語を除いて英語で会話し、メールや社内文書も英語に切り替わった。グローバル企業に脱皮するには避けて通れないと判断した。
「プロ野球参入などで知名度をあげ、経団連を都合よく使った」「国内の仮想商店街『楽天市場』が柱なのに日本語を捨てるのは本末転倒」といった批判にもどこ吹く風だ。風雲児であり続けることをよしとし、まずは行動で示すことを最優先する。
代表理事に就いた新経連ではあらゆる分野でIT(情報技術)を活用し、新産業を興して雇用創出をめざす。意見交換した古川元久国家戦略担当相は「ガラパゴス化から脱するため、グローバルに通用するビジネスモデルを育てることで(三木谷氏らと)意見を共有した」と話す。
自社の成長戦略では電子書籍ビジネスを電子商取引(EC)に次ぐ柱に育てようと7月に専用端末「コボタッチ」を発売。最大のライバルで端末を近く日本で発売するネット小売り世界最大手、米アマゾン・ドット・コムの先手を打った。
ところが発売当日にソフトの不具合で端末が起動できなかったり、コンテンツを取り込めなかったりする利用者が続出し、口コミサイトには不評が多く書き込まれた。出版社から提供されるコンテンツ点数も思うように伸びないなど必ずしも順調な滑り出しとはいえない。だが、めげない。
「日本に読書革命を起こす」と宣言し、紙媒体にこだわりを持つ出版社に意識改革を促す。講談社の野間省伸社長に「打倒アマゾン」とプリントしたTシャツを贈り、野間氏が出版関係者が詰めかけた電子書籍関連の見本市でそれを披露して話題を呼んだ。三木谷社長は「あれはシャレですよ」と笑うが、そうした演出も計算のうちだ。
「世界一のネット企業」を掲げる楽天にとって、アマゾンは越えなければならない大きな壁だ。デジタルコンテンツの柱である電子書籍で端末もコンテンツもそろえることが日本で足元を固めることになり、世界ではECで進出先を増やしていくことが、アマゾンの牙城を崩す早道と考える。
だが、ただ前を見るだけではない。今も手元には創業時の写真が残る。日本興業銀行(当時)を飛び出し、ビルの一室で夫人や数人の創業メンバーと楽天市場を立ち上げたころのものだ。プログラムも入門書を買って手作りした。
1997年5月の楽天市場開設当時の出店者はわずか13店。それから15年。年間取扱額は1兆円を超え、店舗数は4万店弱に膨らんだ。津々浦々の零細業者の門をたたいてECの将来性を説いた原点を自らへの戒めとする。
米グーグルや米フェイスブックの経営者とも国際会議で渡り合える日本人として三木谷社長の業界での知名度は折り紙つきだが、楽天の消費者への認知度は海外ではなお浸透の途上。世界ブランドとして実力が試されるのはこれからだ。
(産業部 杉本晶子)
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