- 2017年にルーズベルト島にコーネル大学とテクニオン・イスラエル工科大のITキャンパスを開設。
- ニューヨークは世界に発信するメディアのるつぼ。
- 多様な人が入り交じり懐が深い。
NY、ハイテク都市へ
起業家集う環境、整備進む
アップル創業者、故スティーブ・ジョブズ氏。シリコンバレーで起業し成功した自信からか、ニューヨークという地をどこか見下していた。「あなたがニューヨークにいる限り(未来のデジタル事業を)うまくはやれまい」。メディア大手ニューズの経営トップが同氏に言われた言葉を回顧している。それをいつか見返す日が来るかもしれない。
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「ニューヨークの環境しか起業は考えられなかった」。デビッド・カープ氏が起業したのは5年前。20歳のときだ。「技術のるつぼがシリコンバレーなら、ニューヨークは世界に発信するメディアのるつぼだ」
運営するサイト「タンブラー」は、世界中のクリエーターがネット上で自分の作品や主張を簡易な形で投稿できる場として急成長。今や7千万近いブログがつながり、1億4000万人が訪れる。今のニューヨークを代表する新興ハイテク企業の1社だ。
本人は技術系。シリコンバレーはし烈な技術競争の場だが、多くの人の発想は意外に同質的だという。むしろ多様な人が入り交じるニューヨークの懐の深さが魅力だった。
さらに「驚くかもしれないが、いまは技術者の採用がニューヨークでできる」。金融危機以降、大企業は採用を絞り、若手のエンジニアがあふれている。シリコンバレーからあえて引っ越してきたQwiki社のような例もある。
ハイテク起業の地として、ニューヨークが磁力を持ち始めたことはデータが示す。全米ベンチャーキャピタル(VC)協会などの調査では、2011年のVC投資の案件数は07年を3割強上回った。シリコンバレー、ボストンなどが軒並み落ち込むなかで唯一、伸びてきた。
IT(情報技術)に勤める人口も5万人を突破。9年前を2万人上回る。フェイスブック誕生を描いた映画「ソーシャルネットワーク」では「マジソン街(広告業の別称)にこびるようなところにいるべきじゃない」と斜めに見る場面もあったが、フェイスブック自身、拠点を構えた。
ニューヨークが「シリコンアレー(小道)」と旗を掲げたのは1990年代半ば。当時はブーム先行の器作りで、夢物語に終わった例も少なくなかった。起業の環境づくりへ、官民で地に足のついた取り組みが実ってきたのも変化だ。
例えば、市とコンサルティング大手アクセンチュアによる「フィンテック・イノベーション・ラボ」。ウォール街の金融とIT起業家を結びつける試みだ。有望6社を今年選び実際の大手の金融ビジネスに生かせるか、3カ月にわたって支援の場を設けた。
「2、3年前ならあまり参加する気はなかった」。クレディ・スイスのファルナー最高情報責任者は環境の激変も大きいという。爆発的に増える情報処理。その分析技術では「金融外の起業家や大学研究の最先端に触れることが重要になってきた」という。
ハイテク都市へ向けた学術インフラも整備が進む。ブルームバーグ市長は昨年末、ルーズベルト島にコーネル大学とテクニオン・イスラエル工科大の誘致を決定。17年完成を目標にIT研究のキャンパスを開設する。元アメリカン・エキスプレス会長で有力VC、RREベンチャーズのロビンソン氏は今以上に「起業家が育つ“温室”環境が整う」と期待する。シリコンバレーの老舗VCでニューヨーク拠点を開設する例も出始めた。
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都市の姿は好況期に作られるとは限らない。摩天楼の一角、ロックフェラーセンターは大恐慌時、不況対策の大プロジェクトだった。今回、ウォール街を震源とする金融危機でニューヨークは深手を負った。しかしただつまずいて終わるわけではない。新たな変身の好機にする取り組みはむしろ活発になった感がある。飽くなき挑戦は都市としての強い活力を感じさせる。
(米州総局編集委員 藤田和明)
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