人材の処遇も育成も「世界標準」に
欧州危機や国際的な基準金利の不正操作問題で世界は混迷を深めている。苦境を乗り越え自ら前に進む力を日本は早く取り戻さなければならない。
政府は「日本再生戦略」を固めたが具体策に乏しい。国を強くするには「民」が力を発揮するしかない。成長するための事業や組織の新しいモデルを民自身でつくれるかが問われている。
日本型雇用では戦えぬ
創業から100年余りたつ日立製作所。「日本的経営」の代表例であるこの企業が迫られているのは、人材をすべて自前で育てる日本型雇用システムとの決別だ。
日立の家電部門は海外事業の拡大に伴い、現地法人経営などを担う「グローバル人材」が現在の約350人から2015年には約520人必要になると試算した。差し引き170人の海外事業要員を3年で育てるのは至難だ。外国人を含めた中途採用の拡大で補わざるを得ない。
新卒段階から長期にわたって社員を雇い、必要な技能や知識を備えた人材を自社で養成するのが日本型雇用だった。若手や中堅のときは賃金を抑え、その後厚くする年功制は、時間をかけて熟練の労働者を育てるのに役立った。長期雇用を通じて会社への帰属意識も高めることができた。
そうした日本型の雇用モデルでは、世界の企業と戦えなくなっていることを日立の例は示す。需要が増えるグローバル人材を賄うには「内製」では追いつかない。
賃金制度も年功色が濃くては、外部から戦力になる人材を獲得しにくい。成果に見合った報酬で優秀な人材を集める海外企業と比べ、競争力の差も開くばかりだ。
経済が安定して伸びたときに適していた日本型雇用システムを、グローバル化で環境変化の激しい時代に対応した仕組みへと、企業はつくり変える必要がある。
まずは年功制から成果・実力主義への改革を徹底すべきだ。一橋大学の川口大司准教授によれば、賃金制度は年功色が徐々に薄まってきたが、今も右肩上がりの賃金カーブが勤続30年ごろまで続く。社員の生産性に連動した形へ改める余地は大きい。
そのうえで国内外の製造販売や研究開発の拠点間を、日本人も外国人社員も柔軟に移れる仕組みが要る。どの仕事にはどれだけ報酬を出すかといった人事処遇の基準を、米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)などは1990年代から世界共通にしている。
日本企業も管理職を中心に、評価や処遇の基準を世界で統一する動きが出ている。海外企業では常識の人事制度の世界共通化を今後は一般の社員にも広げたい。
人材の養成方法も見直すときだ。日本企業は社内で経験を積ませて社員の知識の幅を広げ、専門性も高めてきた。だが世界の企業と戦うには外国の言語、文化や習慣などにも通じる必要がある。
韓国サムスン電子は若手を各国に送り込み、仕事はさせずに自由に活動させて「グローバル人材」を育てる。外国売上比率の9割という高さは人材養成が支える。アサヒビールも若手を海外に派遣し異文化体験をさせている。人づくりも世界を舞台にする時代だ。
規制改革で後押しを
そうした社員の生産性を高める企業の取り組みを政策面でも後押しすべきだ。ホワイトカラーが働きやすくするため、労働時間管理の規制は見直しの余地がある。
1日24時間を自由に使って成果をあげる働き方は海外では当たり前だ。だが日本では、出社や退社の時間が自由の裁量労働制が、事務系の場合は企画や調査などの業務に限られ使い勝手が悪い。対象をもっと広げてはどうか。
企業に戦力の人材が集まりやすくなるよう、人の移動を阻んでいる規制も改める必要がある。個人から手数料を取って企業へ橋渡しする民間の職業紹介事業は、移籍先での年収が一定以上であるなどの条件がある。人材サービス産業という「民」の力を生かすためにも規制改革が求められる。
労働時間管理の規制は長時間労働に歯止めをかけるためだ。人の移動の制限は労働力の取引をなるべく認めないとの考え方からきている。労働者保護のため、そうした精神は尊重する必要がある。
しかし社会や働き方は変化している。日本が成長するために、規制の見直しに柔軟であるべきだ。
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