企業の利益、国益と隔たり
- 2012/7/25付
- 日本経済新聞 朝刊
- 818文字
グローバルに事業展開する日本企業にとって、内外逆転は自然の流れではある。建設機械大手のコマツは日本市場の売上高は全体の16%にすぎず、残り8割以上は世界で稼ぐ。製造業の主軸である自動車産業でも、昨年度はついに海外設備投資が国内を上回った。
非製造業にも内外逆転はある。「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは海外店舗の拡大に伴い、来年は1000人の外国人を採用する計画。日本人の採用は700人にとどまり、雇用という切り口でも海外が国内を上回った。
一連の逆転劇の背景にあるのは、国内市場の成長力不足。各企業は新たな成長機会を求めて、グローバル展開を加速し、M&A(合併・買収)や新規拠点の開設も海外が主役になった。
日本から拠点や雇用が消える空洞化がすぐさま起きるわけではない。コマツの例では売り上げこそ海外が圧倒的だが、日本の拠点は引き続き重要な役割を果たしている。エンジンやトランスミッションなど社内用語で「A級コンポ」と呼ぶ基幹部品は国内工場で一手に生産。それを中国などの最終組み立て工場に供給することで、海外事業の拡大と国内拠点の強化を両立した。
「開発部門と生産部門が同じ場所にいて、しょっちゅう顔を合わせることでイノベーションが生まれる。生産を海外に移せば、メーカーとしての力が衰える」と同社の坂根正弘会長は強調する。
だが円高や電力不足、膨らむ社会保障費の企業負担など日本の輸出産業を取り巻く環境はここにきて一段と厳しい。経済産業省が6月に公表した今年のものづくり白書は「企業の海外展開が国内雇用に負の影響を与え、企業利益と国益が相克する懸念」に言及した。日本での事業継続が厳しくなり、国内を閉めて丸ごと海外に出て行く、根こそぎの空洞化への恐れを公式に認めたのだ。
有力各社の海外資産の比率の高まりは、「もっとビジネスしやすい環境を整えてほしい」という日本政府への無言のメッセージとも読める。
(編集委員 西條都夫)
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